第十話 が風を使っている姿を上から下まで嘗め回すように見やる。 旦那辺りがいたら盛大な叫び声が聞こえてきそうだが、残念ながら旦那は上田城外で祭りの詰めを話し合っている最中だ。 ちゃんはついさっき、明日の流鏑馬組みの馬達の最終調整のために馬場へと連れ出す姿を目視している。 の言うとおり上田城内全体を察知できるというのなら…ちゃんを察知できるかどうかの結構ぎりぎりの範囲だ。 まるで桜吹雪をその身から起こすように範囲を広げていく。 彼女の言う風の使い方を信じたのは…本当に些細な事だ。 地に起こる桜吹雪を…美しいと思ったからだ。 桜がほんのりと紅に染まる理由を、ちゃんはきっと知らないに違いない。 いや、この目の前の少女とて知っているかどうか怪しい。 桜の色が薄紅? あれは人の血を啜った証だというのに。 だからこうも惹かれるのだろうというお伽噺を佐助は信じている。 例えそれが人の起こした噂だろうと、佐助にとっては桜の染まる最も美しい理由には事足りるものだった。 自らの体を流れ、他人にも流れ、それを迸らせながら絶命する姿を何度も見た自分がこうも惹かれるのだから、間違いあるまい。 だからこそ美しいのだと自分が認識していると知ったら…、この目の前の少女も含めてもっと紅に染め上げたいと思っているなど…例え旦那であっても知られてはならないということは重々承知している。 ちゃんならばなおの事。 …あと強いて言うならば、その巻き起こる桜吹雪は…目の前に咲き誇る桜をいたずらに散らせるような事をしなかった。 薄い血色を落とすことなく言われたとおりに風を使っている様を見て、甘いなと哂った。 それだけこの少女の本質が…の言うとおり優しい証拠でもあるだろう。 気配を読み取ったのか、徐々に風が収まっていく。 目を開いたは佐助をまっすぐ見据えた。 「殿は馬場に。幸村殿は…城内に気配がない。街に出ておられるのか…。」 「…正解。なるほど、あんたも存外『優秀』だ。」 気に入らない事はさておき、の能力は使えることが分かった。 常時気配を察知しろというのは風を常に使えと言っているようなものだから、無理な話であろうが…。 例えばすぐに街に私用で出かける旦那なんぞを捕まえるには十分役に立ちそうだ。 呼吸をするように簡単に出せるものかは怪しいが、ちゃんと理解もし、使いこなしている。 怪我のせいか一時期使えなかったようだが、完治した今では十二分に元に戻っているように見えた。 先程の言葉はその前に自分に言われた言葉に対する嫌味も若干含んでいたが、自らを理解しているは世辞抜きに優秀だと言えた。 その時、ぞわりと一瞬で全身に悪寒とも言うべき鳥肌が立ち上がる。 「っ!!」 自分の変化を目の当たりにしたが一瞬目を丸くしたが、それを気にする余裕など佐助にはない。 握り締めた自らの得物がその逼迫具合を物語っていた。 警戒しつつ周辺の気配を探るが、今鳥肌を起こした原因は近くにいないということだけしか分からなかった。 今のは…一体なんだ…? の風に対して浮かんだものじゃない。 それは断言できる。 その風を掠め取るかのように撫ぜた感覚は、自分ととても似ていて、そしてまったく違う闇色をしていた。 感じたものは自分と同じ闇の濃さ。 まるでの風に呼ばれるように、彼女を引きずり込むようにも感じた。 おそらくは…これは予想でしかないけれど、自分と同じだというあっちの佐助の気配ではないかと漠然と思った。 周囲にあれほどの気配を滲ませる存在を察知できない。 それだけ優秀な間者が潜んでいる事は考えにくいし、そもそも同じ闇の自分が察知できないほうがおかしい。 通常、属性を使えば何らかの残り香がその場に残る。 だが、今は完全に気配も何もかもが掻き消えている。 漂うのは血の匂いのようにむせ返りそうな桜の香りだけだ。 向こうの佐助ならば姿が見えないことも納得するし、闇の濃さの理由も十二分に思い当たる。 むしろそう思う方が自然だ。 だが、それこそ違う世界に今の自分が干渉できるのかと問われれば…それは否だ。 そもそも別世界があること事態、未だに完全には信じていない。 だから、根本的に時空を越える事を理解していない佐助からすればどうやっても無理な話だった。 殺気を感じることなくすぐに霧散したそれに…あっちの俺様もなかなか優秀じゃないと自嘲にも似た笑いを佐助は浮かべた。 一方、目の前のはというと、その闇色の気配を感じていないようで。 全身を撫ぜられたと言わんばかりのものでも、それが常にあった感覚のせいなのか、それとも気配を察する風を収めたばかりのせいか、それにまったく気が付いていなかった。 むしろ突然前触れもなく周囲を警戒した自分に驚いていたくらいだ。 手にした手裏剣をぎりと音を立てて回転させ、いつもの定位置に据え置く。 俺様に警戒して姿を現さないというものじゃない。 やはり向こうも世界を超えるなんて事を容易にできるものではないようだ。 ならば、どうして先程は力をこちらに干渉できたのか…。 じっとを見つめる。 向こうとこちらの世界において、彼女の存在そのものが収まりの付かない浮いた状態で。 戻そうという働きが起こってもなんらおかしくはない。 ちゃん曰く、世界が自然な状態に戻そうとしているというか。 もしその飛ばされたという時に単に闇と風の力が反発して起こってしまったと仮定するならば、彼女が風を使用することで引き戻そうと闇の力が生まれたというのもわかる。 もしくは、向こうの俺様が彼女を取り戻すために干渉しようとしているとか…。 明日、お祭り当日だから…あんまりややこしい事にならないといいんですけど…。 彼女を攫ってくれるだけならいい。 これで上田城主と同じ顔の人間だの、裏を取り仕切る忍隊長とかまで来た日には、混乱必至だ。 まだ分身を良く使うから俺様が二人いても説明は付くだろうけれど…向こうの俺様が「わかった」と素直に分身のふりをするとは絶対に思えない。 とりあえずきっかけは…の風の力としか思えなかった。 力を使うことで、向こうとの干渉が起こりえたのだろう。 そうでなければいくら違う場所に飛ばされたとはいえ、闇雲に探すなど、森の中でたった一枚文字の書かれた木の葉を探せと言われるようなものだ。 旦那あたりだったら本気で探しに走るだろうけれど、少なくとも俺様ならばもっと効率のいいやり方を選ぶ。 いや、旦那が馬鹿なんじゃなくて、単にバカ正直なだけというか、どんな苦行であろうとも修行の一言で片付けてしまうというか…。 「その風、できれば明日までは使わないでいてもらいたいんだけど…。」 そう、自分が言ったとしても許して欲しいものだ。 厄介ごとは祭りが終わってからで十分。 むしろお祭りが終了次第ばんばん使って、向こうと世界を繋いでもらいたい帰っていただきたい。 へらりと笑った佐助の顔は心の奥底が見えない笑いで溢れていた。 ■□■□■□ ふわりと頬を撫でる風に、ふとは顔を上げた。 なんて暖かい風なんだろう。 春一番かなと空を見上げたまま眩しそうに目を細めた。 3日前に花冷えで冷え込みはしても、雪も降ることなく本日は快晴で。 明日もおそらくは晴れるだろうと山裾を見た宗秀さんがそう言っていたから、本当に晴れるんだろう。 西の山の端を見れば、大体明日の天気が分かるんですって。 祭り当日が晴れで本当によかった…。 花冷えは桜の花をしっかりと木に捉えさせる事に一役買ったようで、例年になく花がもってくれている。 桜は開いてしまえば散るのも早くて、それに情緒を感じる人も多いけれど、長引く開花は咲き誇るというより、咲き乱れるという言葉がしっくり来るくらい、その木に花を湛えていた。 桜の木が、なんだか重そうに見えてしまうくらい、どの木も花で溢れかえっていた。 ちゃんを上田という街が歓迎してくれているみたいだと、私は思っている。 ぶち子を撫でながら明日はよろしくねと念入りにお願いする。 この子はちゃんが乗る馬だ。 ぶち子と呼んでいたら、ださいから止めろと宗秀さんと以前喧嘩になったなぁ…。 ……よくよく考えなくても私…どうして宗秀さんと喧嘩ばっかりしてるんだろう? それでも信頼していないわけじゃないから、ただなんとなくというか…喧嘩することがコミュニケーション、みたいな? それをお互いも回りも理解しているから放置されているけれど。 猿飛さんが乗る馬は現在宗秀さんが足慣らしに馬場を疾走中で。 猿飛さんが選んだ馬は、上田の馬の中でもマイペースとしか言いようのない子だ。 多分彼があの子を選んだのは観客の雰囲気に飲まれずに走ってもらうためなんだろうけれど、それだけ負けたくないという気概が見え隠れするというか…。 どうして猿飛さんがそこまでちゃんに構うのかが私には分からない。 私と宗秀さんみたいな間柄、というのもちょっと違う気がする。 そりゃ、世界線を飛び越えてきましたと言われて信じろというのが無理だというのは分かる。 私とてここに来なければ、鼻で笑っていたであろうことも、自分がやらかした後では何でも信じてしまえて。 ましてやあんな風にまっすぐ見られたら嘘なんて思うわけもない。 真田さんだって私の言葉を信用してくれて。 何よりちゃんを信頼してくれて。 それなのに、猿飛さんだけが頑なに信じようとしない。 でも…と馬にブラシをかけながらは考え込んだ。 私のときってあんなに頑なだっただろうか? 信じようか信じまいか、悩んでいるような感じにはよく出くわしたけれど…。 それとも相性の問題だったりするのかな? 実際、真田さんとちゃんはこちらが思っていた以上にすぐに仲良くなってくれた。 私としか会話しなかったちゃんが自ら真田さんに話しかけている姿を見たときは、正直お赤飯を炊こう!と言い出しかねない勢いで喜んだ。 私が見ている限り、それからだ、彼女が積極的に城内の人たちと交流を図るようになったのは。 やはり真田さんはすごいなと思うに至って、ようやく猿飛さんが彼女に対して頑なな理由がなんとなく、おぼろげながら分かってきたかもしれない。 ちゃんは真田さんに仕える臣下だと最初に名乗っていた。 それだけでないのは手ぬぐいの反応から分かっていたけれど…。 私と大きく違うのはここだ。 つまりは立場が同じなんだ、猿飛さんとちゃんは。 二人とも真田さんから信頼されている部下で、武器を手に持って一緒に戦に行って、命を預け、捧げてでも真田さんを守る立場。 こちらの真田さんはそういう同世代の、年の近しい臣下を持っていないから、手足となって働いてくれるのは猿飛さん一人だ。 武将さん達は多くいても、本当に心根から信頼しているのは猿飛さんだけだと、誰もが認めている。 もしかして…そういうところを無意識に嫉妬してたり、とか? その責任を半分こすれば?と簡単に言えるものじゃないこと位は知っているつもりですよ、一応。 それこそ元からちゃんが居れば、ちゃんと信頼も築けて行ったであろうことも、いきなり懐に入ってこられれば誰だって戸惑うわけで。 そう考えるとちゃんの事を考えるあまり…他の事に気をまわさなかった自分が浅はかに思えた。 最初の出会いは仕方ないにしても…たとえば簡単に真田さんに会わせたりとかしないほうがよかったんじゃないか…そう思っても仕方なかった。 かといって、今更もう一回仕切りなおし!というわけにも行かないのでこちらが働きかけるしかない、ですよね…。 「………猿飛さん、探そうかな…。」 とりあえず今から明日流鏑馬参加組みと式典で着飾る子達の鬣を編みこんで、きれいにカットしてあげてから、かな…。 自分の櫛を使ってまで梳いた鬣はさらっさらで、揺れるたびに音を立てそうなくらいだ。 どんな時でも馬が優先、なのは最早自分を含めた中での暗黙の了解…なのである。 そして…すべての馬の鬣を編みこんだあとは…とっぷりと日も暮れていた。 当然その夜は祭りの準備に忙しい忍隊長殿を捕まえる事など、不可能だった。 ■□■□■□ 朝早く、与えられた部屋で準備を整えていると、数人の女中と共にが部屋を訪れた。 その顔は嬉しそうにとてもにこやかで、どうしたのであろうかとは首を傾いだ。 「はい、これちゃんの本日の衣装です!」 じゃーんと桜色の房を見せられたときのように自慢げに掲げられたのは鶯色の着物だ。 目に鮮やかなそれは一見して高価な着物というものが分かる。 他にも射篭手など使い古されない程度に新しく、かつ、新しすぎて手に馴染まないなんてことはない程度に使われたものが準備されていた。 「あ、ちなみに着物は私のお古というか、高くてあんまり着れなかったやつで、流鏑馬用の道具一式は宗秀さんが小山田さんを脅しに近い言葉でせしめたものなんだって。」 だから安心してねという言葉を笑顔で言うに、女中達もあの小山田様は見物でございましたと併せてくる。 女中達もと一緒になって大きく笑った。 だから遠慮するなと言わんばかりだが、このように良い道具をそろえてもらってよいのだろうか? 射篭手も矢筒も武田菱が入ったもので、正式な式典に出してもおかしくはない道具だ。 確か小山田も幸村に混じって流鏑馬を行う武将の一人だったはず。 それでも道具として人の手に渡らせたものならば、ここは素直に受け取っておかねばこれを得るよう働きかけてくれたや宗秀に申し訳ないとは思った。 ここは黙って礼を返すべきだろうと、すっと座り込んだはに向かって頭を垂れた。 「誠にかたじけない。」 何から何まで準備していただいて、恩を返すどころか重ねているような気がしてならない。 平素の殿であればその礼を素直に受け取ってくださるのだが、今日は祭りということもあってか、ただ礼を受けているばかりでもないようだった。 「それならお礼ついでに、ちゃんも着飾りましょうね!あまりごてごてしいと流鏑馬の邪魔になるから、見えないワンポイントというか…こうさりげなくちらりと覗くおしゃれ!みたいな。」 「えぇえぇ、心得ております。これほどまでに凛とされたお方ならば、十分に引き立ちましょう。」 「我々にお任せくださいませ。幸村様よりも腕が鳴りますわ!」 「根付もせっかく女子なのですから桜をあしらったものにいたしましょう。」 「根付は胸元を締め付けかねないからそれは様の様子を伺ってからにしましょう?ささ、様は着飾ったあとの様を楽しみにしてくださいませ。」 女中達の勢いに飲まれての足が半歩下がる。 それをは楽しそうに笑いながら見ていた。 こうなっては止められる人間など…この上田にはいない。 あの女性に触られる事を極端に恥ずかしがる幸村でさえ、言葉を挟まなくさせたのだから。 女中達に協力を申し立てたのは確かに自身であったが…この勢いはおそらくいつまで経っても変わらない女性の性というものなのだろう。 「そうですね、私がいても邪魔でしょうから、お任せします!」 着物を衝立にかけられ、が振り返りながらきれいに言う。 とてもきれいなのだが…なぜか一抹の不安を覚えてしまうのはなぜなのだろうか…。 未経験ではないからすべて自分で身につけることができると心の中では思っているのに…反論の言葉を上げさせてはくれなかった。 女性とは斯様に他人を着飾らせる事に執着するものであっただろうかと首を傾げたいが、すでに始まった着せ替えのせいで、首を動かすことも許されない。 あーでもないこーでもないと、襟ぐりの開き具合まで調節され、それでいて自分の最も動きやすい着物の着せ方をしてもらう。 袴とて試しに腰を回してみるが全然違和感もない。 そのまま弓を射る動作をしてみるが、確かに小柄な小山田殿のものらしく、詰められた射篭手も抜け落ちるという事はなさそうだ。 なるほどこれは確かに自分で着付けるよりも案外早く、かなり楽に動く事ができそうだと、はようやく笑顔を見せた。 ありがとうと礼を言いながらが頭を下げると、皆が皆、その背を押し、に見せに言ってこいと部屋からすぐさま追い出された。 しかし、彼女がどこへ行ったのかを自分は聞いていない。 いるとすれば…自室か、それとも流鏑馬やら式典の準備に厩か、それとも会場に一足早く向かったのかもしれない。 足早に城内を進んでいくと、見知った影が歩いてくるのが遠目に確認できた。 ぴたりとお互いの足が止まる。 首を傾いだ幸村が、一瞬の沈黙後、あぁと驚いたように目を見開いた。 「おぉ、殿でござったか。本日の流鏑馬、楽しみにしておりまする!」 「こちらこそよろしくお頼みいたします。慣れぬ作法ゆえ拙い所もあるでしょうが…。」 「お気に召されるな。あまり有志の参加者が活躍されると、某達の肩身が狭くなるでござる。」 ふふと笑うその姿はすでに流鏑馬の衣装に身を包んでいる。 のものはいくら貸し付けようともにわか仕込みの物だが、幸村のものは長年愛用しているのか、確かに様になっている。 ほうとはため息をついた。 自分たちの上田にも桜祭りがあるというのならば、この姿、ぜひとも見てみたいものだ。 「ところで、殿がどちらに行かれたかご存知ではないか?」 「殿は着飾った馬達を誘導していたでござる。もう間もなく城内を出る頃かと。」 「!…幸村殿かたじけない。それでは御前を失礼する。」 頭を深く下げ、足早に過ぎていこうと小走りする前に、幸村からむんずと裾を捕まれた。 そのまま走り去る気だったの足がたたらを踏んで止まる。 一体何事だと顔を上げれば、先程のと同じように眩しそうに笑う幸村の顔がそこにはあった。 「よう似合おうておりまする、殿。」 「ッ…!」 「それでは会場で。…甘利殿に城を出ると伝えてくれ…。…かにも…、…。」 近くにいた武将に話しかけながら足早に去る幸村をは振り返ってまでも凝視し続けた。 顔は仄かに赤い。 純粋に見たままを述べただけであろうとも、並びたてられた美辞麗句などよりもよほど威力がある。 あの幸村とは違い…いや、自分の知る幸村もであろうが、素直に感想を言っただけだと分かるからこそ、どうにもむず痒い。 芯が落ち着かないというか、本質が似ているもの同士同じなのは当たり前なのだが…。 どうにもまっすぐな言葉はくすぐられるようで動揺を隠すのがうまい自分をよくもまぁこんなに簡単に表に晒すものだと、他人事のように感心してしまわざるを得なかった。 そう思えば思うほど…自分の知る幸村に会いたいと思ってしまう。 今は会いたいと願って簡単に会えるどころか、このままどうなるかすら分からないというのに。 それでも願わずにはいられない。 やはり、貴方に会いたい。 そう願うだけでほかりと心が暖かくなる。 今はそれだけで十分。 浮かんだ動揺も心にその姿を浮かべるだけで静寂の海のように凪いで行く。 懐にある手ぬぐいのおかげもあったかもしれない。 とりあえず殿を探さねばとは足早に走って行った。 その口端は浮かんだ笑みを誤魔化しきれないように上がったままだった。 ←back next→ |